「月末月初になると、請求書と経費の処理に追われる」「経理は少人数で、同じ確認作業の繰り返しが多い」——経理の現場から、よく聞く悩みです。
結論から言うと、経理部門のAI活用では、仕訳の候補づくり・経費精算の一次チェック・請求書の突き合わせといった「件数が多くルールが明確な下ごしらえ」をAIに任せ、仕訳の確定・支払いの承認・税務の判断は人に残すのが基本です。 任せる範囲を最初に線引きすることが、安全に成果を出す条件になります。
この記事では、経理部門にAIが効く理由、7つのユースケース、AIに任せてはいけない判断、取引先情報の扱い、月末の負荷の試算、小さく始める進め方を解説します。弊社(株式会社 DeploAI)は、FDE(Forward Deployed Engineer/フォワードデプロイドエンジニア)として、AI導入を現場に入り込んで実装から成果まで伴走しています。経理・人事・総務・法務を横断して見たい方はバックオフィス(管理部門)のAI活用も参考になります。本記事は、その中の経理に絞った深掘りです。人事は人事部門のAI活用で扱っています。
経理部門にAIが効くのはなぜ?
経理部門は、毎月同じ種類の処理が大量に発生し、判断の基準となる規程やルールが決まっているため、生成AIと相性が良い領域です。 効きやすい理由は3つあります。
- 同じ処理が繰り返される:請求書の確認、経費の仕訳、支払いの突き合わせなど、毎月同じ流れの作業が多い
- ルールが文書や過去の処理として残っている:勘定科目の使い分け、経費の規程、承認の基準など、判断の根拠が存在する
- たたき台づくりが多い:請求書の送付文、督促の連絡、差異の説明コメントなど、文面を作る作業が多い
一方で、経理は決算・税務・資金につながる数字を扱う部門です。誤りの影響が大きいぶん、「AIに任せてよい範囲」の線引きが重要になります。
経理のAI活用、7つのユースケースは?
経理のAI活用は、日々の処理・月次の締め・対外的なやり取りの3つに分けて考えると整理しやすくなります。 下の7つは、任せやすい順の目安です。
経理のAI活用の3領域。いずれも、確定や承認ではなく「確認の材料づくり」と「繰り返しの作業」を任せる。
| # | 領域 | ユースケース | AIに任せること | 人が持つこと |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 日々 | 経費精算の一次チェック | 領収書と申請内容の照合、規程に合わない点の指摘 | 判断が分かれるものの可否、承認 |
| 2 | 日々 | 請求書の読み取りと仕訳の候補 | 明細の読み取り、勘定科目・税区分の候補提案 | 仕訳の確定、例外の判断 |
| 3 | 日々 | 請求書と注文・検収情報の突き合わせ | 金額・数量・宛先の食い違いの抽出 | 食い違いの原因確認、支払いの承認 |
| 4 | 月次 | 月次の予実差異コメントのたたき台 | 数字の整理、差異の要因の候補の列挙 | 要因の確認と、報告内容の判断 |
| 5 | 月次 | 請求書の発行(ドラフト作成) | 契約内容と請求条件にもとづく請求書の下書き | 内容の確認と発行の判断 |
| 6 | 対外 | 請求・督促の連絡文のたたき台 | 状況に合わせた文面の下書き | 送付の判断、重要な取引先への対応 |
| 7 | 対外 | 社内からの経理に関する問い合わせ対応 | 規程や手順にもとづく回答、引用元の表示 | 回答の正本の管理、個別判断が必要な相談 |
なお、弊社のFDEのユースケース集には、契約内容と請求条件をもとに請求書のドラフトをAIが作成し、金額や請求先の転記ミスを防ぐ例(上の表の5)や、融資の申請書類で書類間の数字の食い違いを提出前に点検する例を載せています。詳しくはユースケース紹介をご覧ください。
深掘り①:経費精算の一次チェックは、なぜ最初の候補になるのか
経費精算の一次チェックは、判断の基準となる規程が文書で存在し、件数が多く、AIの指摘を人が確認して直せるため、経理のAI活用の最初の候補になりやすい業務です。
経費精算の確認では、「領収書の日付と申請の日付が合っているか」「金額が一致しているか」「規程で認められていない費目ではないか」といった、見れば答えが決まる確認が大半を占めます。ここをAIが一次チェックし、「この申請は領収書の金額と申請額が違う」「この費目は規程の確認が必要」と印をつけると、経理担当者は、印のついたものと判断が必要なものに時間を使えます。
大切なのは、AIが可否を決めないことです。AIは「規程のこの項目に照らして確認が必要」と根拠つきで指摘し、承認や差し戻しは担当者が行います。
深掘り②:請求書から仕訳の候補を出すとき、何に気をつけるか
仕訳の候補づくりでは、AIが提案するのは「候補」まで、確定は人が行う設計にします。 提案には、根拠となる請求書の明細を添えます。
受け取った請求書の明細・摘要をAIが読み取り、過去の処理パターンや勘定科目のルールに照らして、「この費用はこの科目・この税区分」という候補を示します。担当者は、提案を確認して承認するか、違えば修正します。ゼロから入力する作業が、AIの下書きを確認する作業に変わります。
注意したいのは、次の2点です。
- 過去に例のない取引は、人に回す:初めての取引先、金額が大きいもの、摘要があいまいなものは、AIが断定せず、人が判断する流れにする
- 誤りの傾向を測る:どの種類の請求書で候補が外れやすいかを記録し、AIへの指示やルールを見直す(測り方は生成AIの評価(Evals)を参照)
経理でAIに任せてはいけない判断とは?
仕訳の最終確定、支払いの承認、税務上の判断、決算数値の確定のように、会計と資金に責任が伴う判断は、AIに最終判断を任せず、人が責任を持って決めるべきです。 理由は、判断の誤りが決算や税務、資金に直結すること、判断の理由を人が説明する責任があること、AIの出力には誤りが含まれる可能性があることの3点です。
線引きを一覧にすると、次のようになります。
| 区分 | 例 | AIの関わり方 |
|---|---|---|
| 任せやすい | 規程との照合、連絡文のたたき台、問い合わせへの回答 | AIが下書き・回答し、人が事後に確認する |
| 材料づくり | 仕訳の候補、差異の要因の候補、書類間の食い違いの抽出 | AIが整理・提案し、人が内容を確認して判断する |
| 任せない | 仕訳の確定、支払いの承認、税務上の判断、決算数値の確定 | 人が決める。AIは判断の材料の提供にとどめる |
なお、電子帳簿保存法やインボイス制度のような法令・制度への対応が関わる処理では、運用の前に、顧問税理士や社内の担当者と確認してください。AIの出力を、そのまま法令対応の根拠にすることは避けます。
取引先の情報や金額は、どう守る?
経理のAI活用では、「AIに何を読ませるか」「誰が見られるか」「どこに保存されるか」を先に決めることが、最大の安全策です。 経理が扱う情報には、取引先の名称、取引金額、口座情報、従業員の経費に関する情報などが含まれます。
- 読ませる範囲を絞る:対象の業務に必要な書類やデータに限り、口座情報など不要な機微情報は読ませない設計を基本にする
- 権限を区別する:誰がどの情報を見られるかを分け、権限の区別がないまま全員の質問に答える仕組みにしない
- 保存と送信先を確認する:入力した内容がどこで処理され、保存されるかを、利用するサービスの契約や設定で確認する
- ログを残す:何を入力し、AIが何を根拠に提案したかを記録し、あとから確認できるようにする
守り方の全体像は企業の生成AI活用、セキュリティはどう担保する?、記録の残し方はAIエージェントの監査ログ・証跡管理で扱っています。
具体例:月末の経費精算チェックの負荷を試算すると?
経理の処理は、件数と1件あたりの時間を仮に置いて見積もると、AI活用の優先度を判断しやすくなります(以下はすべて説明用の仮の数値です。実際の件数や削減効果は、業務の内容と自動化の設計次第で変わります)。
従業員300名ほどの会社で、月に経費精算の申請が600件あるとします。経理担当者が、領収書と申請内容を照合し、規程に合うかを確認する時間が、1件あたり仮に4分とすると、確認だけで月に40時間(600件 × 4分 ÷ 60分)です。
申請のうち、規程どおりで問題がないものが8割の480件だと仮定します。この8割をAIが一次チェックして「問題なし」の印をつけ、人は印のついた残り2割の120件と、AIが「確認が必要」とした申請を中心に見るとします。人が詳しく見る件数が減れば、浮いた時間を、月次決算の確認や、支払い条件の見直しなど、人にしかできない業務に回せます。
ただし、AIが正しく一次チェックできるのは、規程が整理されている範囲です。規程の記述があいまいだったり、例外の扱いが担当者の頭の中にしかなかったりすると、AIの指摘もぶれます。先に、申請の傾向と、規程の整備状況を確認することが出発点です。文書の整え方はAI活用のためのデータ整備は何から始める?にまとめています。
経理のAI活用は、どう小さく始める?
始め方は、経理の業務をすべて対象にせず、「経費精算の一次チェック」のような1つの業務に絞り、小さく試して広げることです。 次の流れで進めます。
- 1つの業務に絞る:件数が多く、ルールが明確で、誤りを人が確認して直せる業務を選ぶ(選び方はAI導入に業務棚卸しは必要?を参照)
- 根拠となる規程・ルールを整える:経費規程や勘定科目のルールの最新版を一つにそろえ、例外の扱いを文書にする
- 任せる範囲と引き継ぎ条件を決める:AIが指摘・提案する範囲、人に回す条件(高額・例のない取引など)、読ませない情報を決める
- 小さく試し、精度を測る:過去の実際の申請や請求書で、AIの出力と担当者の判断を比べる
- 範囲を広げる:精度と運用に問題がなければ、請求書の突き合わせなど次の業務へ広げる
AIが誤ったときの対処はAIのハルシネーション対策、人への引き継ぎ設計はAIエージェントから人へどう引き継ぐ?を参照してください。効果の考え方はAI導入の費用対効果(ROI)はどう考える?、全体のどこが整っていないかを確認するにはAI活用アセスメントも役立ちます。
経理のAI活用は、DeploAIのFDEでどう進める?
FDE(Forward Deployed Engineer/フォワードデプロイドエンジニア)は、事業と業務を理解したエンジニアが現場に入り込み、御社の実際の業務フロー・システム・権限に合わせてAIを組み込み、社内に残す形で支援するサービスです。
経理のAI化でつまずきやすいのは、「便利そうなAIツールを入れたが、自社の規程や会計システムに合わせた設計ができず、使われない」という状態です。FDE は、この溝を埋めます(FDE の全体像はFDEとはを参照)。
- 経理の業務フローと既存システムを確認し、どの業務にAIを使うかを一緒に絞る
- 規程などの文書に基づく指摘・提案、根拠の表示と人への引き継ぎを組み込む
- 取引先情報の扱いと権限の区別を設計し、人が最終確認する運用を仕組みとして残す
- 出力の質を測る評価のしくみ(evals)を作り、定着支援・改善まで伴走する
サービスの工程には、現状診断、プロトタイプ作成、ツール連携、評価のしくみの構築、定着支援・改善、内製化スキル移管が含まれます。進め方はサービス内容、費用は料金をご覧ください。
まとめ
- 経理部門は、件数が多くルールが明確な処理が多く、生成AIと相性が良い
- ユースケースは日々・月次・対外の3領域。最初の候補は、規程に照らして確認する経費精算の一次チェック
- 仕訳の確定・支払いの承認・税務上の判断・決算数値の確定など、会計と資金に責任が伴う判断は、AIに任せず人が決める。AIは確認の材料づくりにとどめる
- 取引先情報は、読ませる範囲・権限・保存先・ログを先に決める
- 始め方は、1つの業務に絞り、規程を整えて小さく試し、広げる
経理の定型業務をAIで軽くしたい方は、お問い合わせからご相談ください。ユースケースの一覧はユースケース紹介で確認いただけます。
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